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毒蜜喰らわば
第7章 心ここにあらず
*
「おい・・美智、美智?」
トントンと背中をたたいた雅治は、私の顔を不機嫌そうに覗き込んだ。
「いくら会話がなくても苦痛じゃないっていったって、ちょっと黙り込み過ぎだろ」
人があふれる上野公園のベンチに並んで座る雅治は、
私と目を合わせてから大きなため息をついた。
日曜の午後。
上野公園内にある美術館に展覧会を見に来た私達は、
いつもと変わらぬ時間を過ごしている、つもりでいたのに、
めずらしく雅治はイラッとした態度を見せた。
「あ、ごめん!なんかボーっとしちゃって。暑くて眠くなったのかも」
「はあ?眠くなった?じゃあどっか涼しいとこにでも入るか?」
公園内は緑におおわれているから多少は涼しくもあるが、
熱を含んだ風からは逃れたい。
すぐに立ち上がる雅治を見上げて、私もよいしょと立ち上がる。
並んで歩きながら、一昨日の夜を思い出す。
茂と体を密着させたときの幸福感。
男の肌の温もりが落ち着きと安らぎをあたえてくれた。
じゃあ雅治の腕に自分の腕を絡めれば?と思っても
わずかな隙間を開けて歩いてしまうのは、なぜだろう。
考えたところで答えは出ない。自分から手を差し出そう。
雅治の手のひらを握ってみる。
だが、私の手のひらを包むその手には、期待する力強さは感じられなかった。