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毒蜜喰らわば
第8章 禁断の扉が開いた・・
庭園に着くと、すでに茂が待っていた。
池に背を向け遊歩道に目をむけて私の姿を探してくれていた。
「お待たせしました。今日は突然にすみません・・
でも、お会いできてよかった」
「僕もです。だけどほんとうに驚いたなぁ、稲村さんから電話をもらった時には
僕の心が読まれたのか?なんて、ちょっと背筋がゾワッとしましたよ」
笑いながら私の背をそっと押し、一歩足を踏み出していたが、
私は彼の腕を引いた。
「ちょっとだけ、蛍を見てもいい?」
振り返った茂は首をかしげて、
「まだ明るいから蛍は見えないよ。また後で見に来よう、ね?」
そう言った。
まるで蛍は見えるとわかっているかのように。
初めて蛍庭園のベンチに座って夕涼みした時に彼は言っていた。
昔は蛍がたくさんいたけど今ではもういなくなってしまった、と。
茂は蛍を見てはいないようだった。
だけどあの時、私は一匹の蛍を確かに見たのだ。
「ええ、暗くなったらまた来ましょう」
今度は素直に一歩を踏み出し、茂と肩を並べて歩き出した。