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梅の湯物語
第13章 関西からのお客さま
「お梅さん、どうしてあの時大阪に?」

「銭湯を仕舞いにしようと思いましてね」

「え?」

汐さんは驚きの顔を向ける。

「あの頃はバブルって言ってましたかね?
 まあ、街はランチキ騒ぎで新しいものがどんどん入ってきて。
 あちこちの銭湯が姿を消し始めた頃でもあって...
 この辺もお客さんも減って、薪も手に入りにくくなりましてね。」

お梅は手もとのお茶を見つめながらホウッと息を吐いた。

「そのころ丁度母も亡くなり、潮時かなと。
 私の役目も終わったと。

 身寄りもないし、後を継ぐものもいない。
 もともと持ち主が帰ってくるまで代わりでやっているようなものでしたからね。誰も戻ってこなかったら私でお仕舞いにしようと思っていたんですよ」

そしてふっと思い出したように笑うと

「それで守次さんにご挨拶にいこうかと...
 やっと思えるようになったというところですかね。

 必死に生きてきたのでね。
 気がつくとあの日から50年が過ぎていたんですよ。

 あの人がいつか帰ってくるんじゃないかって心のどこかで期待していましたけど、さすがにね。
 あの人はもう帰ってこない。
 さすがにそれを受け入れないといけないと思って。
 それで銭湯を閉めて大坂へ行ったんですよ」

お梅は汐さんに向かって微笑んだ。

庭から鶯の鳴き声が聞こえる。
ここは本当に東京だろうかと思うほど穏やかな時間が流れている。



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