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梅の湯物語
第13章 関西からのお客さま
「まさか守次さんの縁者の人に出会うとは思ってもみませんでしたよ」

お梅が恥ずかしそうに笑った。

「ええ。
 お梅さんが帰ったあと、母が言っていたんです。
 守次さんの大事な人に生きているうちに会えて良かったって
 父と母に冥土の土産ができたって」

お梅が驚いて汐さんを見つめた。

「あの頃母は少し痴呆があったんですが、昔のことはちゃんと覚えているんですね。

 守次叔父さんが戦地へ向かう前に実家へ戻ってきて
 『戦地から戻ってきたら紹介したい女性がいる。
  自分はその人と一緒になりたい』
 と私の祖父母に伝えたそうです。
 祖父母はそんな人がいるならすぐにでも一緒になることを勧めたそうですが
 『自分もまだ学生だし、相手の女性もまだ若い。
  戦地に向かう自分が彼女を縛りたくはないと』
 そう言っていたそうです。
 祖父母としては戦地に向かう前に一晩だけだとしても息子に夫婦になって欲しかったようですが、守次叔父さんは『自分は戻ってくるから』とその話は聞かなかったそうです。あの時代にそんなことを口にしてはいけなかったのにと母は言っていました。
 あえて希望を残して行った。
 なんとしてでも生きて帰ろうと思っていたんだろうと
 それほど大切な人だったんだねと
 そう母は言っていました」

お梅は汐さんの顔を凝視したまま。

「守次さんが...」

「お梅さん」

汐さんが鞄の中の封筒を取り出し、お梅に渡す。

「母が亡くなったときに祖父母の遺品があってその中に入っていました」

お梅は茶色く色の変わった封筒を開ける。
色褪せた白黒写真
女学生の自分が写っている。

「祖父母は
 『この別嬪さんは守次の嫁なんだ。
 東京の帝大の先生で軍医をしている方の娘さんだ。
 戦争が終わったら守次がすごい嫁をつれて帰ってくる』って近所の人たちに自慢げに話していたそうですよ。

 『一度でいい、会ってみたかった』といつも母にそう言っていたそうです」

お梅の窪んだ目から涙がポロポロと流れる

「守次さん...」

「だから、お梅さん、私たちが出会ったのも偶然ではなかったかもしれないですね」

汐さんがお梅に向かって微笑んだ。





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