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梅の湯物語
第13章 関西からのお客さま
「あら」

何気なく番台を見ていた汐さんが呟くと立ち上がった。

見つめているのは番台に置かれたウサギの江戸切子。

「綺麗ねぇ」

「気に入ったかい?」

いつの間にか隣には庄五郎の姿

「オイラの作品だよ」

「これを?庄五郎さん、すごいんですね」

汐さんが庄五郎さんを見上げる。

「なんでも子宝梅酒っていうらしいぞ」

「あら。
 うちにも重さんが持ってきてくれたけど、天狗の入れ物だったような...」

汐さんが首をかしげる。

「ははっ、それは若いもんがふざけて作ったやつだ。それもなかなかに売れているらしいがよ」

「でも、このウサギとグラス、本当に綺麗ですね」

汐さんはウサギを手にとって日に翳してみた。
日の光を受けて赤くキラキラと輝く。

「うちの孫たちにあげたいですね。そうしたら曾孫も見られるかしら?」

ウサギを見つめながらふふふと笑っている。

「お孫さん何人だい?」

「二人です。
 上の子は結婚してしばらくするんですが
 下の省吾は...結婚するまでもう少しかかりますかね。とってもかわいいお嬢さんで、省吾は大好きみたいですけど」

汐さんが思い出したように笑っている。


「なんだかいい雰囲気ね」

多恵と富美が小声で言い合う。

その声を遠くで聞き付けた良太さん。

番台の二人を見て慌てて立ち上がった。


「汐さん」

良太さんが汐さんの肩を抱く。

「良太さん、これとっても素敵でしょ。
 庄五郎さんが作られたんですって」

汐さんの手にあるウサギを見つめた

「へぇ、こりゃたいしたもんだね。
 素晴らしいや」

良太さんも感嘆している。

「そりゃ、ありがとよ」

庄五郎はにっこり笑って席へ戻っていく。

「どうしたんですか良太さん」

自分の肩に置かれた手を見つめて汐さんが言う

「いやっ
 ここは油断できない町だからな。
 この年で汐さんを追いかけるなんて思ってもみなかったよ」

汐さんはふふふと笑う。

「妬きもちですか?
 それは嬉しいですね。
 確かにここにいるとなんか若返りますね」

「そうだな」

二人は顔を見合わせて笑いあった。


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