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梅の湯物語
第13章 関西からのお客さま
「お梅さん、ここは?」

柱を磨きながら汐さんが尋ねる。

「人目を避けてしか会えない二人の離れってとこですかね」

「人目を避けて...」

汐さんが呟く

「そうだね。浮気とかそんなんじゃなくてね。
 立場や名のある人ほど自分の想いだけではどうにもならないことがあるんですよ。どんなに想いあっていても複雑な状況がそれを許さない。

 昔はねお妾さんとして囲うことも当たり前だったけど今の世の中ではそれも許されないから。

 だからそういう人たちの逢瀬の場といえばいいですかね」

お梅は床を磨きながら答える。

「梅の湯ってそんなことも出来るんですか」

「もともとお殿様のための湯殿がありましてね。
 風情のある建物だったから、町の人にも再興して欲しいと言われて。
 でも家族風呂にするには少々趣がありすぎたから
 そんな使い方をしてみたんですよ」

お梅は微笑んだ。

「そうだったんですか」

「そういえば...」

お梅が何かを思い出したように呟く。

「最近は訪れがないけれど、大阪から年に数回来てくれた人がいましたね。
 綺麗な顔をした紳士で、お連れの方をとても大事にされていた。
 どんな事情か知らないけれど、本当に想いあっていたようでしたから。
 幸せになっていてくれたらと...」

お梅が独り言のように呟いた話に

「綺麗な顔の紳士...」

汐さんも呟いた。

「思い当たる人でも?」

汐さんは微笑みながら頭を振って

「いえ...でもきっとその人は幸せだと思いますよ」

「だと嬉しいね」


二人ですべてを磨きあげ

「さて、朝御飯にしましょうか」

お梅が声をかける。

片付けをして家に戻ると
食卓には朝食が用意されていて
奥の座敷は昨日の宴の騒ぎはどこへやら、きれいに片付けられて静けさを取り戻していた。


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