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行こうぜ、相棒
第10章 This is the time
ジェントルなキスをした柏木は、つかの間、そんなことを思い出していたエリの手を取った。
何をするつもりだろう、といぶかる間もなく、彼はその手を自分の股間に当てさせた。
そこは、昨日とはうって変わった、柔らかな肉塊の気配だけがあった。
どういう意味?
エリは言葉にせず、ただ、戸惑っていた。
「たぶん、今日は…勃たない…」
力なく、柏木は言った。
エリは驚いた。しかし反射的に、彼のプライドを守らねば、という思いも抱いた。
「あなたも疲れているのよ。ごめんなさい、私ばかり求めすぎ―――」
その言葉を言い終える間もなく、柏木はエリをかき抱いた。
「違うんだ。おれも、君を抱きたい。でも…」
抱きしめられたまま、部屋の時間がゆっくり固まっていった。
窓の外の往来の音だけが、しずかに聞こえる。
時が止まり、言葉が消えていった。
何も言えない、何も口にできない空気が、部屋を支配していた。
「――トラウマなんだ。過去の。明るい部屋では…君を抱けない」
柏木の絞り出すようなかすれた声が、エリの耳を通り過ぎてゆく。
あんなに大きく、強く、自信に満ちた男の、あまりに脆い一面を垣間見た。
その背後に秘められた彼の暗いストーリーを感じつつも、エリは自分を抱きとめる柏木を、逆に力強く抱いた。その背中をそっと撫で、ごわごわとした髪に触れた。
そして、言った。
「気にしないで…。今夜はこのまま眠りましょう。あなたも傷ついているのね。たくさん。私もそう。いつか話すわ」