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行こうぜ、相棒
第10章 This is the time
「結局、なにが言いたいの?」
「彼はね、私を変えるきっかけなのかもしれない、と思ったのよ。二十歳の年にあなたが見つけた指輪みたいに、ね」
あぁ…。
リエは姉に気づかれないように嘆息した。
エリは恋をしている。それに間違いはない。そして大昔の心の傷を未だに抱えている。いや傷はそれだけではない。愛そうとして愛せなかった相手からの痛みも、まだ癒えていないのかもしれない。
いつも内に篭って本心を明かさず、謎めいた笑みを浮かべながら全てを受け流してきた姉は、本当は誰よりも傷つきやすく、脆いのだ。
それを誰よりも知っている妹はだからこそ、あのとき姉を振りほどいたのだ。姉がこれからひとりで生きて行けるように。たくましい大人になって、過去の呪いから逃(のが)れられるように。
けれどもまだ姉は、あの時と同じ場所で足踏みをしているのではないか。あのベッドの間でつないでいた手が離れた場所から、少しも動けないでいるのではないか。
リエは美しく成熟した自らの姉の顔を見ながら、そこに幼い日の面影を見た。
いくよ、おねいちゃん
そういって、あの地下室から姉の手を引いて脱出した時の、力の抜けた姉の表情を思い浮かべた。
私がこの人を守らなくてはならないのだ、とリエは思う。私の片割れは、私が事あるごとに捨て去ってきた全てを拾い集めて生きているのだから。
「おねいちゃん」
と、リエは普段は使わない呼称で姉を呼んだ。
「先生の時みたいになって欲しくないの」