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行こうぜ、相棒
第11章 It’s a Mistake
2010年代後半に起こった独裁政権の打破と、そこから始まる内乱はこの大陸ではよくある出来事だった。中国と米国に陰で支えられた二大勢力は重火器や大型兵器での戦闘を繰り返し、首都のハラレでは日常生活が送れないほどの荒廃が進んだ。
柏木の『会社』は米国側の支援のために現地入りし、首都から撤退を続ける旧政府軍を防御していた。
装甲車に分乗して撤退戦を指揮する将軍一行の脇を、黒い川のように民衆の群れが歩いてゆく。赤く乾いた土の上を。黒光りする素肌の、白目も濁った人々が。
着の身着のまま首都を逃げ出した彼らの、力なき行進。どこへゆくとも知れず、虚ろな目をして、ただ故郷を追われる人々。
「業務外のことには気をそらすな」
当時の上司であった黒人の小隊長が言った。
「俺たちにできることは何もない」
言われなくても、それは分かっていた。
しかし柏木にはその表情のない人々の群れが、たまらなく思えた。人間としての尊厳を奪われ、ただ命からがら逃げるだけの人々に、悲しい同情を覚えた。
それが一週間先、自分の身にも降りかかる悲劇なのだとは知りもせず。