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行こうぜ、相棒
第11章 It’s a Mistake
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目の前で、小さな炎が揺れている。
ぱち、ぱちと、生木のはぜる音がして、時折暗闇の中にオレンジ色の光点が心細げに立ちのぼって、揺れては消えてゆく。
暗い夜だ。
砂浜で拾ってきた、完全に干乾びた枝をくみ上げ、エリはひとりで焚火(たきび)をしている。
季節は初秋。
すこし肌寒い夜。
見上げれば、天の川が空に大きくかかっている。アンドロメダとカシオペイアが天空に広がっている。
そして振り返ると、砂浜から少し丘を上がったところに、あの先生の別荘が見える。明かりは灯っているが、屋内に人影はない。
あれから人を頼って、エリはあの先生の別荘を買い付けた。それはリエにも言っていなかった。
折に触れてこの場所を訪れては、エリはひとりで時間を過ごすことを好んだ。
秋の気配が訪れるこの頃、エリは別荘の前の砂浜で、ひとりで小さな火を熾(おこ)した。
大きな石に腰かけて、時折長い枝で薪の位置を変え、炎の勢いを一定に保つ。
まるで生き物のようにエリになつき、その些細な心遣いに敏感に反応する炎。
夜の闇の中にほのかに赤く、心を落ち着かせる力を持つ。まるで先生のように。
エリはこうして折に触れ、その別荘を訪れては、喪ってしまったものを慈(いつく)しんだ。
夜の窓辺に座って何時間も、月に照らされた海を見ながら、先生がここで何を想い、何に心を動かしたかを想像した。
さみしさに耐えられなくなるとこうして、砂浜に出て焚火をした。
気が付くと、月は東からずいぶん西のほうに場所を移し、潮は磯をずいぶん手前まで満たしていた。
寒さも、静けさも、すべては親密に思えた。
そしてエリはそこで、先生もきっと同じように、ここで何をするでもなく時間を過ごしたであろうことを確信した。ただぼんやりと、時の移ろいに目をやって、過ぎ行くすべてを黙って見届けたであろうことに、思い至った。
その時間をこそ、エリは必要とした
そしてその時間が、静かにエリを癒した。
先生が去った傷と、もっと昔に負った、あの地下室での傷を。
炎はエリに育てられ、静かに燃え続けている。
暗闇に、オレンジ色のその身を揺らめかせ、熱と音で人をあたためる。