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行こうぜ、相棒
第4章 Rule The World
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「マティニを。ロックスタイルで、オリーブ抜きで」
初めての店だと言っていたのに、手慣れた頼み方だ。
そう思ったから、
「手慣れているのね」
と、男にエリはそう言った。
「面倒なだけさ」
「面倒くさがりなの?」
そう問うたエリに、男はチラリと目を送った。
「――時と場合による」
サーブされたロックグラスを、彼は手に取る。
バァルームの薄暗い照明の中、その骨張った手に、エリは見入ってしまう。無骨で、たくましい腕だ。シルバーのメタルストラップの腕時計がよく似合っている。
「いまは、その時なのね?」
時計のストラップには、いくつかの傷がついていた。メタルストラップにつく傷だ。それをはめていた腕だって無事ではあるまい。何があったのだろう。その傷が、どんな経緯でついたのか、知りたかった。
深く澄んで、静かにこころを充たす男の声を、もっと聴きたかった。
「わたしを口説く時は、面倒くさがらないでね」
そう、言ってみた。
不意に、言葉が唇から出ていった。そんなつもりはなかったのに。