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行こうぜ、相棒
第8章 Walk Between Raindrops

この店にエリが居着くようになってもう二〇年近くになる。最初の頃、彼女は未成年だった。
資産家の父が幼い頃からここによくエリを連れてきた。そして彼女が十八の歳にこの店を、というより旧市街のこの店を含むビル自体の権利書を与えられた。快活なリエには別の、新しいファッションビルがあてがわれた。
その父と母があの忌まわしき東京でのテロリズムの犠牲で亡くなってから、十五年になる。
ずっと愛してきたこの軽い飲み物の、汗をかいたグラスの向こうに、ここでの思い出のいくつかが通り過ぎてゆく。
ボーイフレンドと口論をして、グラスの飲み物をかけた後、「まるで映画ね」とマダムに腹を抱えて笑われたこと。
父親ほども年の離れたボーイフレンドや、彼女の当時の生活の全てを支えてくれていた恋人に罵詈雑言を浴びせかけ、公衆の面前で彼らを激昂させたことも一度や二度ではない。
でも、男たちは知らぬ間にエリの後ろに立った、腕っ節の良いコック達に睨みつけられ、言葉もなく勘定を払って店を去っていった。
この店は、そんなエリを一度たりとも煙たがったり、つまみ出したりはしなかった。それはエリが実質的なオウナーであるから、という理由だけでなく、ここがエリにとっての“ホーム”だからであった。

