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行こうぜ、相棒
第8章 Walk Between Raindrops




「行きがかり上でそうなっただけの、単なる下っ端の御用聞きさ」

柏木は足を組んで、エリを見た。

「そちらこそ、何者なんだ? オウナーだって? この店の?」
「質問は一度にひとつがマナーよ」エリは不敵に笑った。
「名前はエリ。鮎川エリ。エリはカタカナのエリ。職業は…」
エリは一瞬言い淀んでから、

「職業はね、お金持ちよ」

と告げた。
目を丸くした柏木は、それから軽く吹き出した。
「変な女だな」
「そう?」
「ああ、面白い女だ」
「あの時は、面倒くさい女だと言ったわ」
柏木の笑顔は苦笑になった。「忘れたよ」
「女はね、そういうのは忘れないの」
「らしいな」
「でも、」エリは柏木の方に身を乗り出した。「私も忘れるわ。あなたがこうして、来てくれたから」

「――盛り上がっているところ、悪いんだけど」
と、マダムの声。
エリはそこで一瞬、現実に引き戻された。

「お待たせしました」

そう言って、マダムは柏木にグラスをサーブした。エリの前のグラスも差し替え、ふたりの間に生魚のカルパッチョらしいものをひと皿、置いた。

「若いおふたりに、店からのサービスよ。マダイの生ハム。食べてごらんなさい。飲み物もそれに合うように変えておいたわ」

そう言って、踵(きびす)を返すと途端にテーブルを去っていった。



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