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行こうぜ、相棒
第8章 Walk Between Raindrops

大阪臨時政府は米国に報復の協力を求めたが、その犯人の証拠が上がらないことには米軍も動くことはせず、結局うやむやなまま、犯人探しは失速した。いかにも日本らしい行いだと西洋諸国は失笑したが、「もののあはれ」を解(かい)さない彼らに、そのメンタリティが理解されるはずもなかった。
『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず』と、大阪臨時政府の首相を務めた当時の大阪府知事はコメントのなかで引用し、それが当時の日本の気分を端的に表していた。
首都を失った日本は途端に政治的・経済的混乱に陥ったが、大阪臨時政府の舵取りが奇跡的に奏功し、致命的なデフォルトに至ることはなかった。
そして極東アジアでは、その不意の核テロリズムが言葉にならない恐怖となって国々を襲った。
その結果、三年後の2021年に韓国は北朝鮮との和平を結び、朝鮮半島は平和的統一を果たした。半島政府は北朝鮮のような独裁体制は敷かず、中国政府のような社会主義共和国体制へと変化して行った。
当然米国はそれを阻止しようと努力したが、頼みの綱の日本が弱体化し、また朝鮮新政府に中国が強く接近したことにより、容易に手出しができなくなり、この地域への米国のプレゼンスは著しく下がった。
現在、極東アジアでは日本が唯一の民主・資本主義国となっている。そして、より民主化へと舵を切った中国が、東京壊滅から10年後、地域のリーダー的立場に立つようになった。
日本でも、自動車産業は変わらず強かったが、IT産業は完全に中国の支配下におかれ、GoogleやTwitter、Facebookといった米国の情報企業はほとんど、中国のものに置き換わっていた。
大阪臨時政府はやがて、瀬戸内のある港町に新たな新政府を打ち立てることを宣言し、そこを新浜市と名付けた。新浜新政府は、そこに元からあった旧市街とは別に、新市街を打ち立て、そこに新たな政治都市を作り上げた。

