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花菱落つ
第2章 真田源五郎
「申し訳ありませんが、それはできません」
「なぜだ」

 断られるとは夢にも思っていなかった源五郎は、思わず大声を上げた。二人の脇を通り過ぎた旅人が、大声に驚いて振り返った。

「俺と夫婦になるのがそんなに嫌なのか」

 思い上がりかもしれないが、自分が凪に嫌われているとは源五郎には思えなかった。むしろ道中少しずつ源五郎に笑顔を見せることが増え、打ち解けてきたと感じていた。

「いいえ。真田様のことは好ましく思っております。ですが、決して夫婦になることはできないのです」
「お前が『ののう』だからか」
「違います」
「ではなぜ」
「それは……」

 凪は目を閉じしばし黙した後、目を開いた。凪の石榴のように赤い唇が動くのを、源五郎は待った。

「それは、私が『男』だからです」

 予想もしなかった理由に源五郎はぽかんと口を開け、茫然自失の体(てい)で凪を見つめた。
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