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花菱落つ
第5章 裏切り
 七月のお盆の候。義信は灯籠見物にかこつけて、密かに飯富虎昌の屋敷へと赴いた。

「夜も更けた。そろそろ館へ戻るとしよう」

 談義を終え義信は立ち上がった。秘密裡の訪問ゆえ供は連れていない。

「お館様の手の者に見つからぬよう十分、ご用心をなされませ」
「大丈夫だ。このような時刻、さすがに誰もおらぬだろう」

 義信は笑って首を振った。草木も眠る丑三つ時、出歩くのは幽霊くらいのものだ。

 だが、ひっそり躑躅ヶ崎館へと帰ってきた義信を物陰からじっと見つめる目があった。人影は義信が西曲輪に戻るのを見届けた後、静かに西の方角に消えていった。 
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