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花菱落つ
第5章 裏切り
「お館様」
「何じゃ」
扉の前に控えていた小姓が信玄に声をかけた。凪と睦み合う間、小姓には声をかけるなと伝えてあったが、何かあったら遠慮なく声をかけろとも常日頃から伝えていた。信玄はあからさまに不機嫌な様子で着衣を整えると、房事の余韻で未だ横たわったまま動けない凪の体を白衣で覆い、衝立の陰に隠した。声をかけてきた小姓は凪も知る源五郎だった。現在は元服して武藤家に養子に入り、武藤喜兵衛と名を改めている。喜兵衛に乱れた姿を見られるのは、凪も恥ずかしく思うだろう。
「飯富三郎兵衛尉様が至急のお目通りを願い出ております」
「通せ」
「は」
扉の向こうの喜兵衛の気配は足音を立てて去った。このようなまだ朝早い刻限に信玄への目通りを願い出るのは異例のことだった。余程に急を要する用件に違いない。凪は衝立の陰で息を潜めて事の次第を見守った。喜兵衛の登場と告げられた飯富三郎兵衛尉の名に、ざわざわと胸が騒いでいた。
「何じゃ」
扉の前に控えていた小姓が信玄に声をかけた。凪と睦み合う間、小姓には声をかけるなと伝えてあったが、何かあったら遠慮なく声をかけろとも常日頃から伝えていた。信玄はあからさまに不機嫌な様子で着衣を整えると、房事の余韻で未だ横たわったまま動けない凪の体を白衣で覆い、衝立の陰に隠した。声をかけてきた小姓は凪も知る源五郎だった。現在は元服して武藤家に養子に入り、武藤喜兵衛と名を改めている。喜兵衛に乱れた姿を見られるのは、凪も恥ずかしく思うだろう。
「飯富三郎兵衛尉様が至急のお目通りを願い出ております」
「通せ」
「は」
扉の向こうの喜兵衛の気配は足音を立てて去った。このようなまだ朝早い刻限に信玄への目通りを願い出るのは異例のことだった。余程に急を要する用件に違いない。凪は衝立の陰で息を潜めて事の次第を見守った。喜兵衛の登場と告げられた飯富三郎兵衛尉の名に、ざわざわと胸が騒いでいた。