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花菱落つ
第7章 廃嫡
義信の居室へと向かった巫女姿の正室は、部屋の前に控えていた家臣と目が合った。だが家臣は無言で一礼し、正室を中へ通した。
「凪、ではないな。まさか――」
入室した巫女姿の女性の正体に、義信はすぐに気づいた。背丈はさほど変わらないが、巫女装束を身に纏っていてもわかる丸みを帯びた柔らかな身体の曲線は、大人の女性のものだ。
「はい。凪に着物を替えてくれるよう頼みました」
「よく見張りの者に気づかれなかったな。……いや、気づいていて通してくれたのか」
「おそらくは」
「そうか。そなたに再び会えるとは思わなかった。感謝をせねばな」
「はい」
着物を替えてくれた凪。
正室に気づきながらも通してくれた信玄の家臣。
彼らの配慮でこうして逢瀬が叶っているのだ。
「久しぶりのそなたの香りだ」
義信は巫女姿のままの正室を抱き寄せた。正室の髪と身体からは、義信もよく馴染んだ穏やかな香りがする。
「義信様……」
いつまでもこうして寄り添っていたいが、二人に与えられた時間は限られている。義信は正室をきつく抱きしめ、鮮やかな紅を刷いた唇にそっと口づけた。
「凪、ではないな。まさか――」
入室した巫女姿の女性の正体に、義信はすぐに気づいた。背丈はさほど変わらないが、巫女装束を身に纏っていてもわかる丸みを帯びた柔らかな身体の曲線は、大人の女性のものだ。
「はい。凪に着物を替えてくれるよう頼みました」
「よく見張りの者に気づかれなかったな。……いや、気づいていて通してくれたのか」
「おそらくは」
「そうか。そなたに再び会えるとは思わなかった。感謝をせねばな」
「はい」
着物を替えてくれた凪。
正室に気づきながらも通してくれた信玄の家臣。
彼らの配慮でこうして逢瀬が叶っているのだ。
「久しぶりのそなたの香りだ」
義信は巫女姿のままの正室を抱き寄せた。正室の髪と身体からは、義信もよく馴染んだ穏やかな香りがする。
「義信様……」
いつまでもこうして寄り添っていたいが、二人に与えられた時間は限られている。義信は正室をきつく抱きしめ、鮮やかな紅を刷いた唇にそっと口づけた。