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花菱落つ
第9章 生生流転
「お前は凪なのか。それとも松なのか。……いや、もしかしたらそのどちらでもないのかも知れぬな」

 小袖の帯を解くと、ほっそりとした裸身が露になる。平らな胸としなやかな筋肉に、松との違いを嫌でも意識せざるをえない。顔は女性のようでも、凪の身体はれっきとした男性なのだ。この二年の間にへのこは大きさと赤みを増し、陰の毛も生え揃っていた。

「女でもあり、男でもある。まるで観音のようではないか」

 観音菩薩は元は男性とされるが、時として女性にも変化する。また普段の顔も中性的で性別を感じさせない。凪のようだと義信は思った。

「それにしても、なんとも艶(なまめ)かしい観音であることよ」

 歴戦の武将の武骨な腕と、少年の「ののう」の白くしなやかな腕が互いの身体をまさぐる。身体を撫で擦る義信の手の動きに合わせ、凪の身体が妖しく蠢(うごめ)いた。その扇情的な動きと蠱惑的な表情に、義信のへのこが次第に昂ってゆく。

「ああ、義信樣……」

 潤んだ切れ長の瞳が切なく義信を見つめた。色情の奔流に己を委ねた凪の顔は神懸かってさえ見えた。巫女が神を降ろす時の顔に似ている。荒く忙しない吐息は熱く、そしてどことなく甘い。

 あえかな光に照らされた美しく完璧な裸体は、本当に観音菩薩の化身のようだった。義信は目の前にいる現世の観音菩薩へめがけ、猛ったへのこを穿った。絡み合う肢体は仄かな灯火に浮かび上がって淫靡な律動を繰り返していた。

「――」

 互いの昂りが極まった瞬間、二人は同時に己を解き放った。誰かの名を呼んだ気がするが、一体誰の名を呼んだのか、義信は自分でもわからなかった。
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