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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「お疲れさまであります、竹田少尉殿」
機体上部の大きな天蓋が開き、枯れた緑色した飛行服に身を包んだ青年が滑走路に降り立った。青年の名は竹田正。陸軍第五十二航空師団に所属する少尉で、現在二十三歳。痩身長躯で彫りの深い鋭角的な顔立ちをしている。見るからに生真面目そうな印象は、元は法学部の学生だっというのも頷ける。
「機体を頼む、葉山」
「任せてください!」
顔一杯に笑顔を浮かべて請け負う整備員の葉山義夫は、今月二十歳になったばかり。軍属として地元から徴用された若者だった。糸のような細い目に坊主頭のよく似合う丸顔はまるでてるてる坊主のようだと、口の悪い輩は言う。根っからの飛行機好きだという葉山の細い目はすぐに竹田から離れ、山吹色の機体に注意深く注がれた。
「どこか調子の悪いところはありましたか?」
「いや」
「ああ、よかった」
竹田の機体は九九式高等練習機である。名称からもわかる通り皇紀二五九九年(昭和十四年)製造と、少々旧式のため、日頃からのこまめな整備が欠かせない。
機体を葉山に託した竹田は、昼食のため滑走路からは少し離れた場所にある食堂へと戻ったのだった。
機体上部の大きな天蓋が開き、枯れた緑色した飛行服に身を包んだ青年が滑走路に降り立った。青年の名は竹田正。陸軍第五十二航空師団に所属する少尉で、現在二十三歳。痩身長躯で彫りの深い鋭角的な顔立ちをしている。見るからに生真面目そうな印象は、元は法学部の学生だっというのも頷ける。
「機体を頼む、葉山」
「任せてください!」
顔一杯に笑顔を浮かべて請け負う整備員の葉山義夫は、今月二十歳になったばかり。軍属として地元から徴用された若者だった。糸のような細い目に坊主頭のよく似合う丸顔はまるでてるてる坊主のようだと、口の悪い輩は言う。根っからの飛行機好きだという葉山の細い目はすぐに竹田から離れ、山吹色の機体に注意深く注がれた。
「どこか調子の悪いところはありましたか?」
「いや」
「ああ、よかった」
竹田の機体は九九式高等練習機である。名称からもわかる通り皇紀二五九九年(昭和十四年)製造と、少々旧式のため、日頃からのこまめな整備が欠かせない。
機体を葉山に託した竹田は、昼食のため滑走路からは少し離れた場所にある食堂へと戻ったのだった。