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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「……そうだ、これ差し上げます。元の写真を焼いたものです」
機体をバックに飛行服姿の第七十九振武隊の十二名が勢揃いしたモノクロ写真だった。桶川飛行学校を発つ直前に撮った写真だ。竹田の右隣には橋本の姿がある。
「ありがとう。懐かしいな。……俺の時間はあの時からずっと止まっているような気がするんだよ」
懐かしげに写真を見つめる竹田の眼差しは時を越え、遥か遠くを見ていた。
「竹田少尉殿。今度はお国のためではなく、自分自身のために生きてください」
「そうだな。それができるといいな」
竹田は寂しげに笑った。葉山はひとしきり思い出話に興じたのち、竹田の病室を辞した。
竹田が亡くなったと連絡を受けたのはそれから一月後の秋半ば、桜が狂い咲くニュースを見ていた時のことだった。第六振武隊の標識は桜の花弁。きっと橋本が季節外れの桜となり竹田を迎えにきたのだ。あの橋本なら桜を強引に秋に咲かせることなど、造作もない気がする。
こうして陸軍第七十九振武隊最後の桜のひとひらが、ついに散った。
機体をバックに飛行服姿の第七十九振武隊の十二名が勢揃いしたモノクロ写真だった。桶川飛行学校を発つ直前に撮った写真だ。竹田の右隣には橋本の姿がある。
「ありがとう。懐かしいな。……俺の時間はあの時からずっと止まっているような気がするんだよ」
懐かしげに写真を見つめる竹田の眼差しは時を越え、遥か遠くを見ていた。
「竹田少尉殿。今度はお国のためではなく、自分自身のために生きてください」
「そうだな。それができるといいな」
竹田は寂しげに笑った。葉山はひとしきり思い出話に興じたのち、竹田の病室を辞した。
竹田が亡くなったと連絡を受けたのはそれから一月後の秋半ば、桜が狂い咲くニュースを見ていた時のことだった。第六振武隊の標識は桜の花弁。きっと橋本が季節外れの桜となり竹田を迎えにきたのだ。あの橋本なら桜を強引に秋に咲かせることなど、造作もない気がする。
こうして陸軍第七十九振武隊最後の桜のひとひらが、ついに散った。