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海に散る桜
第1章 海に散る桜
「ここは……」
「気がつきましたか?」

 竹田が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。医師らしき男性が上から覗き込んでいる。

「……死に損なってしまいました」
「体が良くなれば、また出撃することもできましょう。今は怪我を治すことに専念しなくては」

 医師の説明によるとここは加世田にある陸軍病院だった。出撃直後敵機の爆撃を受け近くの島に墜落した竹田は島民によって命を救われ、加世田まで運ばれたということだった。

「……そうですね」

 それからしばらくして怪我の癒えてきた竹田は、部隊についてわかる範囲だけでも教えて欲しいと頼んだ。軍病院ということもあり、医師は第七十九振武隊に関する情報を集め、教えてくれた。

 出撃した十二機のうち敵機に当たって散華したのが十機、敵機の爆撃で墜落したのが竹田の一機、爆薬を落として知覧へ戻ったのが一機だった。
 だが、戻った一機は四月二十二日に第四次航空総攻撃の一員として再び出撃し、見事散華したということだった。四月二十二日といえば竹田が病院で意識を取り戻した日だ。再出撃した一機というのは橋本だと竹田は確信した。橋本は言葉通り竹田に命を譲って死んだのだ。
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