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海に散る桜
第1章 海に散る桜
 それからおよそ七十年の時が過ぎた。

「竹田さん、お見舞いの方がいらっしゃいましたよ」

 入院中の竹田は予想もしていなかった人物の来訪を受けた。

「お久しぶりです竹田少尉殿!」
「葉山君……か?」
「そうです、葉山です! よくお分かりになりましたね」
「てるてる坊主みたいな顔は昔と変わっていないからね」
「てるてる坊主はひどいです」

 見舞いに来たのは特攻隊時代に桶川飛行学校で一緒に過ごした整備員、葉山だった。葉山とは実に七十年ぶりの再会になる。葉山は両手に大きな秋桜の花束を抱えていた。

「向こうに花瓶があるから花束はそこに差してくれないか。……それにしても少し立派過ぎやしないか?」
「大きい方がいいんです。病室が何となく賑やかになったでしょう?」
「ははは、葉山君は中身も昔と変わっていないな。それにしてもよくここがわかったね。一体どうしたんだ?」

 竹田は復員後故郷の岐阜に戻り、それ以来ずっと岐阜で暮らしていた。今入院している病院も岐阜県にある。

 葉山は突然の来訪を詫び、来訪に至った経緯を話し始めた。
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