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堕天使 1st gig.
第29章 希望
休暇明けの訓練学校では、やはり俺はひたすら明石だけを眺めていた。俺と何度か目が合う明石は訓練が終わるなり

『俺になんかあるのですか?』

と聞いて来た。俺はやはりストレートに

『お前、兄貴の為に軍に志願したのか?』

と聞いていた。明石は少し警戒する顔になり

『俺の事、調べたんですか?』

と言って来た。俺は

『ああ、お前、本音とか言ってくれないからな。』

と答えていた。明石は

『それで、同情でもしてくれるんですか?』

とやはり本音を隠そうとするから俺は

『同情はしねぇな。うちの隊員は皆がそんな奴ばっかりだから、同情とかしてたらキリがねぇよ。』

と俺の方が本音を言っていた。明石は

『そうでしょうね…。』

と意味ありげに言うから俺は

『んあ?』

となっていた。明石は

『教官は実力主義だって事ですよ。同情とかだったら兄貴は海外派兵にはならなかったはずですから。』

と言い出した。

『お前の兄貴も特別訓練兵か?』

『4年前、教官に訓練を受けてますよ。』

『つまり、兄貴の希望が叶わなかったから俺を恨んでんのか?』

と今度は俺が警戒していた。明石はクスクスと笑いながら

『違います。兄貴は教官に憧れてました。毎回、教官は凄い人だって言っていました。だけど兄貴は自分の実力じゃ教官の部隊には入れないって認めていましたから。』

と言って来た。俺は

『つまり、対テロを兄貴は希望したのか?』

と明石に確認していた。明石は

『そうです。だからもし俺が対テロに入れるだけの実力があれば兄貴が喜ぶのかなって、俺が思ったのはその程度ですよ。』

と初めて本音らしい事を明石が言っていた。初日に俺に対して取った態度は俺が本当に明石の兄貴の言っていたほど凄いのかを明石なりに試したかっただけらしく、明石は

『すみませんでした。』

と頭を下げて俺の前から立ち去っていた。

単純に誰かを喜ばせたいから必死になる…

リナは俺の為ならいつも頭でっかちに必死になる。俺はそんなリナの為に必死になる。明石はそうやって単純に兄貴の為に必死に努力を続けている。

だから、もし俺が明石を対テロに欲しいと言えば走り続ける明石はやっと立ち止まって一息つけるのだろうと俺は思っていた。

だから今は明石に好きなだけ走らせてやろうと俺はしばらく明石の事は見守るだけにすると決めていた。
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