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【Onlooker】~サラが見たもの~
第3章 イケナイ、男(ひと)?
――黒木は、悪ぶるのを止めない。十代の時に歌舞伎町に流れ着いて以来、なによりも他人に舐められることを嫌った。そうしてつっぱってなければ、いつ掃き溜めの中のゴミのようになってしまうかと思い、それを恐れた。
でも幾ら表層を偽ってみても、自分が本当の意味で強くないこと――弱いことは、これまでの人生で痛烈に自覚させられてもいたのだ。
だけど――否、だからこそ――。
「どうも、久しぶり」
ロビーから立ち上がり、その辺りをぶらぶらと歩き回ろうとした時。不意な再会を受けて、黒木はその足を止めた。
「咲花……さん?」
「アハ、元気にしてたぁ? 俊ちゃん」
久しぶりにそう呼ばれ、背筋にむずむずとしたものを感じた。それでも黒木としては珍しく取り繕うと、口元にぎこちない笑みを浮かべる。
「ええ、まあ……なんとか、やってますよ」
「そう」
黒木が『咲花(さいか)』と呼んだその女は、自分から訪ねておきながら、興味無さそうに一応はそう頷くと――。
「ちょうど良かった。お店まで送ってちょうだい」
「え?」
「ああ、でもその前に。美容室に寄ってね」
勝手に話を進める彩華だが、当然ながら黒木はそれに応じるつもりはなかった。
「すいません、咲花さん。俺はもう、貴女の店のボーイじゃないんで……」
しかし――
「そんなこと関係なくない? だって、俊ちゃんと私は――」
そう言いかけた言葉を、黒木は慌てて遮って言う。
「と、とにかく――俺には送っていくヤツが、他にいますから」
それを聞くと、何故だか咲花は意味ありげに笑う。
「うん、知ってる」
「は?」
「でも、彼女――まだ帰らないと思うけど」
「――!」
そこで黒木は、ハッとなにかを察した。