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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?
単に女嫌いではない。
黒木という青年は極度の女性不審となってしまっている。そうなってしまうまでには、もちろん幾つかの経緯があって。そこには主に、二人の女との関係が暗い影を落としていた。
その一人が、あの彩華であるのだが。あと、もう一人のことを、黒木が他の誰かに話したことはなかった。
それは、いわゆる心的外傷(トラウマ)――。
『ねえ、俊ちゃんは――いい子でいてくれるわよね?』
その声を、遠くで聞いた気がして――。
「くっ……」
ハンドルを握りながら、黒木は思わず顔をしかめた。
少しでも思い出しそうになると、鈍い頭痛が襲う。幼少期の一場面は、今も彼を苦しめて止まない。
別に女の全てが嫌いというわけではない。
拾ってもらった紅谷零子には、一定以上の恩義を覚えてもいる。あの美貌であるが、女ということ以前に『社長』という立場があるから、その意味で変に意識することはなかった。
それと、あのちんちくりんの白隅サラ。彼女にしても、実は第一印象では悪く思う処は皆無であった。だからこそ一層、現在の苛立ちに影響しているようだが……。
「所詮……どいつも、女の顔をしやがるんだ」
頭痛のする頭を押さえながら、黒木が吐き捨てるように呟いていた。
問題なのは、女が性を想起させる瞬間であり。そんな女の匂いを、あざとく計算高い態度を、自分を惑わす怪しい笑みを――黒木は一様に、嫌悪してしまうのだった。