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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?
思いの他、上擦った声に自分が驚き、サラはひとつゆっくり呼吸をすると、紺野の顔を見据えて訊ねた。
「エレベーターで初めてお会いした時に、私がどなたかに似ていると――紺野さん、そんな風に仰っていたものですから。そのことがずっと、気になっています」
「ああ、そうか――」
紺野は頷くようにして、こう言葉を続けた。
「僕には――妹がいたんだ」
「妹さん?」
「そう。だけど……もう十年以上前に、死んでしまった」
「え……!?」
「彼女は生まれつき、大きな病を抱えていてね。年頃を迎えた頃になると、ほとんどの時間を病室で過ごすことを余儀なくされていた。でも彼女は、いつも僕に微笑みを向けてくれた。辛くて苦しいはずなのに……その顔は、森羅万象の全てを悟ったような顔に見えた」
「……」
「僕はその顔を見てることに、耐えられなくなった。それで、僕は彼女に訊ねた」
「それは、なんと……?」
「『一番望むことは、なに?』――と」
紺野の声は、寂しげな響きだった。
「それで、妹さんは……?」
サラが、それを聞いた時。
ソファーから立ち上がった紺野は、カーテンに僅かな隙間を作ると、そこから階下の夜景を眺めた。
サラはガラスに映っている、その表情を見つめながら話に耳を傾けていた。
「……」
やがて、紺野は妹に纏わるを語り終わり。
サラは聞いて、どうしようもなく哀しい気持ちとなった。哀しい話だと感じるしかなかった……。
だから――
「サラさんは、泣いてくれるんだね」
カーテンを閉じ振り返った紺野は、サラを見て言う。