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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?
「だって……」
頬を伝う涙――サラの傍らに立ち、紺野はそれをしなやかな指先で拭った。そして同じ手で、艶やかな黒い髪を撫ぜた。
こんな風に、誰かに「いい子、いい子」ってされるの、いつ以来のことだろう。サラはふと思い返した。そうして一番に思い当ったのは、今よりずっとチビだった小学一年生になったばかりの頃――。
サラの家の近所に自分より更に小さい、二つ年下のみっちゃんという女の子がいた。そのみっちゃんが近所の男の子たちにいじめられていて、サラがそこに助けに行った時のことである。
男の子は三人もいて、みんなサラよりずっと身体が大きかった。だから結果はまるで敵わなくて、みっちゃんと一緒に大声で泣いてしまったのだけれど。その大声のお蔭で大人が駆け付けて来て、なんとか事無きを得たのだった。
そうして家に帰った時、その話を聞いたサラの両親は「サラ、えらかったね」と言いながら、やはり頭を優しく撫ぜてくれた。
ぐすっ……。
そんな場面をつい思い出してしまったせいなのか、せっかくイケメンさんが拭ってくれていたのに、サラは涙の止め方がわからなくなってしまった。
「サラさんは、優しいお嬢さんなんだね」
「ち……違うんです」
ホントに哀しいのは、私じゃないのに……。
サラはそう強く思い、早く泣き止もうと必死になった――。
けれど、それも――己の心と向き合えない、証。
サラはまだ、そんな自分を見つめることができずに……いるの、だった。