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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?
「妹を失った後、当然のように僕自身も心身ともに大きなダメージを負うことになった。そんな時に、唯一心を慰めるものを僕は見つけていたんだ」
「それは……なんですか?」
「悲劇さ」
紺野は、涼しげな顔で言う。
「当時の僕は、哀しい物語にだけ触れていたいと思ったんだ。映画も小説も演劇も――須らく、不幸な結末の悲劇だけを選びそこに浸っていった。その心理は、自分でも明快に論じることはできない。だけど、たぶん――僕はこう思いたかったんだろう。哀しいのは、なにも僕の妹だけじゃない――と」
「……」
「そうして辛い気持ちを誤魔化し続けることで、皮肉にも逆に片時も忘れられずに……。結果として僕は妹のことを思い続けることになった。想い出の中に綺麗に閉じ込めた彼女は、決して風化しない。そして、僕は自らの“罪”を心に刻み続けながら……」
「そんな、それを罪だなんて――」
そう言いかけたサラの言葉を、紺野は差し出した右手でそっと制した。
「とにかく――そんなことを繰り返したことで、自然と僕の生業は決していたようだ。いつしか自分で自ら戯曲(ものがたり)を認めるようになり、やがてそれを演出する立場になった。別にそれを望んだ訳でも、ないのに……」
そう話し俯き、しかし、再び真剣な顔を向けると、紺野はサラに語った。
「でも、仮にそれを運命と位置付けるのならば――そう思った時に。僕はある強い使命感に、駆り立てられることになる」