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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?
「黒木さんの仕事って、一体なんなんですか?」
「はあ?」
「私たちオンルッカーの送迎をして、その仕事が終わるまで待機して――それだけじゃないんですか?」
「だったら……どうだって、言うんだよ?」
「少なくとも、私のこと――不快な気分にさせることは、そこには含まれないと思いますけど!」
サラがそう言い放った後、暫く間があり――。
「そうだな……わかったよ」
黒木は、言った。
最初よりも遥かにどんよりとした空気を運び、車だけは確実に目的の場所へ近づいていた。そして、やがて静かなブレーキ音と共に、それは停車している。
サラは窓から外を見て、まだ不機嫌さを残した口調で訊ねた。
「今日――このマンションですか?」
「ああ、そうだ」
「クライアントの部屋番号を教えてください」
「待てよ。今、車を停める場所を――」
そう言いかけた黒木の言葉に、サラが言葉を重ねた。
「結構です。私一人で、行けますから」
「なんだと……?」
「クライアントについては零子さんがチェックしてるから、まず滅多なことは起こらない。最初に、そう言ってましたよね」
「まあ、そうだが。一応は――」
「だったら、一人で大丈夫です」
サラは、きっぱりと言った。
その頑なな様子を見て、黒木は髪を掻くと観念したように言う。
「ちっ、わかったよ。それでも、コレだけは持ってけ」
左手で差し出されていたのは、防犯ブザー。
「……」
サラは口を結んだまま、その手の甲のドクロのタトゥーを見つめていた。
そして、それから――
「カッコよくなんてないし……怖いから、嫌いです。サングラスだって、そのタトゥーだって……」
サラはそう告げると、ブザーを引っ手繰るように受け取り車を降りていった。