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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?
「少しだけ……言い過ぎちゃったかも」
マンションのエレベーターを上に昇りながら、サラは俯き加減にポツリと呟いている。そうした時に、ふと心に不安な気持ちが過った。
今日のクライアントは、オンルッカーを初めて利用する男性だということ。そんな人が敢えて自分を指名したのだとすれば、その理由はたぶん……。
サラはこの前の、乱交紛いの現場を思い浮かべて、ため息を吐いた。
「……」
エレベータ―を降りると、やや古びたマンションの通路を進む。その途上で不意に立ち止り、サラは後ろを振り向いた。と、その時――。
『なんだよ、結局一人だと怖いんだろーが? なあ、おもらし女』
ニヒルに笑う黒木のそんな声が脳内再生され、サラはムッとして頬を膨らませた。自分で勝手にイメージしておいて、勝手に怒っているのだから始末が悪い。
問題なのはそうして感情を昂ぶらせることによって、目の前の状況を見誤ってしまうことだが、果たして……?
「あ、この部屋だ」
サラは教えられた部屋番号のドアの前で立ち止まると、インターホンを押した。
『――はい』
「あの――オンルッカーの者ですが」
そうして、部屋から顔を出したのは――。
「ああ、どうもどうも。今日はよろしくね」
にこやかに応対してくれた青年の姿に、サラはホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、上がってよ」
「はい。それでは、失礼します」
――バタン。
サラを迎え、そのドアは閉ざされている。