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【Onlooker】~サラが見たもの~
第4章 安堵させる、左手?

 まるでスプリングがはじけ飛んだように、一瞬の出来事だった。

 数歩でベッドに飛び上がって来た際。大きく振り上げられた左足が、次に目標物を射抜くように真っ直ぐに伸びる。

 靴底が坊主頭の横っ面を、その衝撃で醜く歪めていたのがわかった。それが、次の瞬間には――ドサッ!

 吹っ飛ばされた大男がベッドの下で、無様に下半身を晒したまま。後ろ回りの途上のような体勢で、ひっくり返っていた。


「……!」


 驚き、それに目を見張る、サラ。

 その下着姿に身体に、黒木は自らの上着をそっと被せた。

 ほんの数秒で、そこまで――。


「……」


 サラは霞がかかったままの視界に、自分の危機を救ってくれた黒木の姿を見ている。

 だが目の前の顔はまだ警戒を顕にしたままの、横顔。しぐさに気遣いを感じさせながらも、一心に見つめるサラの顔を見てはくれない。


「なあ、ひとつ答えろよ」


 だからその言葉も、サラに向けられたものとは違った。

 黒木は優男に向かって、訊く。


「アンタらがどんな『職種』の人間なのかは、大体の察しはつくよ。だけどそれがわざわざ、こんな普通そうな女にここまでのことを?」

「別に……理由なんてありません。ちょっとだけ、ムラムラとしてしまっただけ。ほんの出来心ですよ。そっちだってセックスに関わる商売ですから、こんな程度のトラブルは想定内のことでしょう」

「こんな程度……だと?」


 黒木はピクッと眉を動かし、優男の方に歩み寄る構えだ。


「あ、いえいえ――もちろん、やりすぎたことは謝りますから」

「そうかよ――」


 黒木はそう言って、トンとベッドを降りると――


「じゃあ、とりあえず土下座だ。俺にじゃなく、この女にな」

「はいはい――わかりましたよ」


 そう言って、黒木の傍らで床に手をつこうとした優男だが。その顔がニタリとほくそ笑んだのが、サラの方からはわかった。


「あ、危ない!」


 シュッ! ――カシャ。

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