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【Onlooker】~サラが見たもの~
第5章 アイドルの、掟(ルール)?
サラの向けた疑問を携えた視線に応えるべく、紺野がここに至る事情を語り始めた。
「この二人には一昨年、僕の演出した舞台に出演をしてもらっていたんだ。有名な漫画を原作としたミュージカルもので、前回公演の好評を受けこの度、第二弾が決定している。主たるキャストである二人には引き続きオファーを出し、両者サイドともにそれを快諾してくれたわけだけど。初回の打ち合わせの時に、既に僕にはピンとくるものがあってね」
「……?」
「そう。これも職業柄というべきか。どうも他人の心の機微に対し、特別に敏感になってしまうようでね。まあ、しかし当然と言えば当然かな。只でさえ同じ職場で恋愛関係にある二人が、その事実を周囲に隠し通すことは存外、難解なことだよ」
「恋愛……」
そう繰り返されたサラの言葉を耳にすると、特に険しく表情を歪めたのは、長峰ひかるの方だ。その隣の栗山は、そんな彼女を気遣うように様子を見つめている。
「ましてや二人の役柄は、舞台上にあっても恋人同士。そんなこともあり僕はいち早く、二人が私生活にあっても親密であろうことに勘づき――それで、若い時分から知り合いである栗山くんの方に鎌をかけた。そしたら、案の定――というわけさ」
「……」
紺野の話を聞いた栗山は、流石に厳しい形相でぎりっと奥歯を噛み締めた。それに反するように一方の長峰ひかるは、先程までの刺々しい態度とは一片。やや呆然と立ち尽くし、力なく肩を落としている。
そんな態度の意味、その理由ははっきりとしていた。同じ芸能人であっても、その意味にあって二人の立場はまるっきり違う。それは、叩き上げの俳優である栗山にはなくても、人気アイドルである長峰ひかるには厳然として科せられた“ルール”。
すなわち――“恋愛禁止”という鉄の掟。
それがあるからこそ、紺野の言葉通りもし二人が恋愛関係にあるのが事実だとすれば、それが公になった時のマスコミの騒ぎは想像に難しくはなかった。