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【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?
※ ※
「そう……そうよね」
照明の消えた【Onlooker】事務所の社長室には、周囲の雑多な繁華街のネオンの光が怪しく差し込んでいた。その中で【Onlooker】社長である紅谷零子は、通話を終わらせている。
ふうっと小さくないため息を洩らしながら、机の上に魅惑的なその腰を乗せた。行儀が悪いと思いつつも、子供のように両足をパタパタと揺らす。そうしてから――
「らしくないんすよ……か」
部下である黒木俊太に言われた言葉を、何気に呟いていた。自分でもその通りだと思い、自嘲気味に笑う。すると、そんなのも自分らしくはないのだ。
落ち着いた大人の女性。仮にも社長なんて呼ばれてる。白隅サラや黒木から見た時の、自分の立ち位置くらい理解していた。
それでも――。
「私らしさって、なんなのかしら?」
零子はそう自問して、本棚の奥の写真立てを見る。照明が暗いから、写真に写されている光景は視認できないけれど。その想い出の一枚から、更に過去に遡って其処に想いを馳せることなんて、とても簡単なことだ。
【Onlooker】を立ち上げるより、ずっと前。キャバクラ時代を通りこして、写真の中の仮初の笑顔の二人。それは、それよりも前の――。
未だ高校生だった紅谷零子が、二つ先輩だった紺野涼に仄かな恋心を抱いていた、そんな頃まで遡った話である。