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【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?
※ ※
「潤が――一番望むことは、なに?」
「たった、一度きり……恋を、してみたかった」
「……」
妹――紺野潤の答えに、涼は暫しの絶句を余儀なくされた。
紺野涼の夢の最中。そう、これは幾度となく繰り返された夢の中の光景。
だが、正しく過去をトレースしたそれに、一切の希望が入り込む余地はなかった。同じ会話を重ね、やがて辿る経緯(みち)は……。
それでも若き頃の自分にピタリとシンクロを果たし、涼はそれが夢だとおぼろげに自覚しながらも、熱き想いで言う。
「できるさ――この先、何度だって」
必死に勇気づけようとした。「してみたかった」と過去形で置き去りにされた言葉が、哀しかった。哀しすぎた。それが嫌だから。しかし――
「……」
潤は黙って微笑を浮かべている。死期を悟り、それを受け入れようとしていた。涼はその顔を見ているのが、なによりも辛かった。自分が無力だと思った。
だから、それを打開するには、それしかないのだと――涼は決意することになる。
「たった、一度きりの……?」
「そう。幾つもなんていらない。唯一無二、そんな恋がもしも、あったのなら――!」
淡々とそう語る潤の細い身体を、涼は堪らずに抱き止めていた。
「潤……」
「兄さん……?」
そして、その思いの丈を零す。
「僕と……」
「え……?」
意外な言葉を受け、潤の身体が俄かに脈打つ。が、それでも戸惑ったように震えた手は、やがて涼の背中へ届いた。
その感触を覚え、涼は更に強く潤を抱きしめ――それから、告げた。
「僕と……恋を、しようか」