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【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?
高校の二年後輩に紅谷零子という少女がいた。通学のバスの車内で肩をぶつけた時に、二人とも手にしていた文庫本を落とした。そそくさと拾い、その場では話す事はなかったが、どうやら読みさしの本を互いに取り違えたらしく。
それで後日に、再び顔を合わせた時に――。
「これ、とても面白かったよ」
と、微笑と共に本を差し出した涼を見て。
「こちらも、なかなかです」
そう言った零子も、また既に読み終えた本を返そうとしていた。そんな出会いだった。
彼女の印象は怜悧な美少女。涼が好意を抱くまでの道のりは、とても緩やかな下り坂のようなもの。そして、零子からの好意にも程なく気づくとことなる。
後は幾つかの言葉を交わすだけ。そんな時であったからこそ、涼にしてもそれを告げるのは辛かった。
「もう、僕と会うのはよした方がいい」
本心に抗った言葉は、それを発する時にガサガサと至極通りの悪い不協和音を、喉の奥に残した。だがそれ以上に、失望した零子の顔を見ることに耐えられない想いだった。
それでも――
「潤が……妹がいるから」
その決意を、もう覆すことはできなかった。