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【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?

 最初は車椅子を押して、舗装の整った道路の先まで。毎日少しずつ範囲を広げ、二人だけの冒険は続けられていった。そうしてやがて、自分たちの暮らす屋敷が見えなくなる森の中へと、分け入るまでになっていった。


「潤、大丈夫か?」

「うん、平気」


 最早、車椅子では進むことのできぬ山道を、涼に手を引かれながら潤は懸命に歩いた。その時に見せた顔は、息は切れ切れであったけれど、とても楽しそうだと――やがて、涼にそう思わせてゆくまでになった。

 涼は純粋にそれが嬉しかった。生まれて初めてといっていいくらいの些細な冒険が、潤に自分の運命を忘れさせてくれている。もちろん、ほんの一時ではあったけれど。

 涼は、その変化に――潤の細やかに笑顔に、心を躍らせ。その時の熱量を、恋愛の気持ちに置き換えていった。否、自然とそれができるようになった。

 潤の心にも、それと同様の反応があったのか、それは定かではない。

 が、しかし――


「兄さん……」

「なんだい?」

「ううん……違うの」

「潤……?」


 二人が見上げた山の峰に、太陽が吸い込まれそうとした時だった。夕陽を受け眩しそうに瞳を閉じた潤は、その心の中でなにかを切り替えたというのか。

 再び開いた眼差しで涼を一心に見つめ、潤はこう呼ぶ。


「……涼」

「……!?」


 刹那、ハッとした。しかし、そうでありながら、自然とその肩を抱いている。


 涼はその時に、潤との初めての口づけを交わしていたのだった。

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