この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?
二人の両親は、仕事で家を空けることが多かった。厳格な父は多忙を極め、年に幾度もの海外渡航に母を連れ立って行くのだった。
そんなことだから、そもそもその目を盗む必要すらないのである。両親が不在の屋敷の中で、涼が気にすることと言ったら精々、潤の身の回りの世話をする使用人のことぐらいだ。それだって立場の違いを利用すれば、誤魔化すことだってできる。本来そういった権力の傘に入るような真似は、嫌ではあったけれども。
だから、容易かった。夜、静けさに包まれる広い屋敷。それに乗じて、潤の部屋を訪れることなんて。
カーテンの隙間から差し込む、優しげな月明かり。潤の横たわるベッドに腰を下ろし、涼はその頬を愛おしげに、そっと撫でた。
「……」
自分を一心に見つめている瞳が、ゆるゆると揺れる。それでいて視線は、揺らぐことはなくて。なにかを期待して、止まないように……。
恋をしたい。妹は言った。
それを叶えようとした兄は、その刹那、大いに戸惑っている。
「潤……やっぱり、よそうか」
初めて男女として共にしようとした夜を前に、しかし――涼は言った。
初めての恋に、潤はのめり込もうとしていた。行きつくところまで、行ってしまうのだと欲していた。
涼は、そう感じ、それが怖くなった。
「……」
兄の言葉を聞いた潤の、感情の気配(いろ)が俄かに変わる。押し黙り。瞳を閉ざし。それから、見つめ返した。
「そうね……わかったわ。私の我儘に付き合ってくれて、今までありがとう……兄さん」
笑う、その表された感情の種類に反するように、その顔は、悟りきって諦め尽くした、あの顔だ。
それを目の当たりにし、ハッとする。自分でも、そう動けと身体に命じた覚えもない。だが、涼は――潤に覆い被さるようにして、激しくか細い身体を抱きしめた。
「潤――ああっ、潤」
衝動に突き動かされてゆく。怖かった、そう感じていたのは、潤に対して抱いた想いではなく自分の心内包されていたもの。妹に只ならぬ感情を抱いてしまった、自分自身に。だがそれでこそ、妹の――潤の望みを真に叶えることができるのだ。
もう己が心に正しさを質すのは、止めよう。涼は決めて――
「潤……いいんだね?」
「……」
こくりと頷いた、その身体を――この夜、涼は初めて抱いた。