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【Onlooker】~サラが見たもの~
第7章 その関係は、曖昧?
子供の頃の黒木俊太には、いい思い出はなかった。
特に小学校の時は、ない。無理にでもそれを探そうとすれば、それは砂漠の砂の中から一粒だけ交ざった食塩を探し出すのと同等に困難なことかもしれないと思う。
それくらいに、ない。
夏場に一週間、学校に同じTシャツを着ていったことがあって。その間、雨にも降られ、転んで泥だらけにもなったり。丸首の襟がだらしなく伸びてしまったり。そんな風だったから、そのことでクラスメイトから酷くからかわれることになった。
「不潔」「臭い」「惨めたらしい」「捨て犬みたい」――等々。他にも、もっと辛辣なことを言われた。その前にからもいじめられてはいたけれど、その日からは蹴る殴るだって当たり前のようになった。
俊太はまだ身体が小さくて、なによりも細くて、全然、弱かった。でも、身体的なこと以上に、いじめられる自分を「しょうがない」と思ってしまう心が、なによりも弱かった。
一週間、同じTシャツを着ている自分が悪いのだろう、なんて。そんな風に考えてしまうから。もちろんそこには、どうしようもない事情があって――。
俊太は自分の父親が、金融関係の仕事をしていることを、なんとなくだけど知っていた。でも、他に知っていることは少なくて。やがて、金融の仕事といっても、それが銀行だとかそういうちゃんとしたものではないことを、おぼろげに理解したくらいだった。
父親とは、この前に会ったのって、いつ? と、暫く考えなければならないくらいに、顔を合わせること自体が、稀だ。その代わりに――
ドン、ドン、ドン!
夜中に、アパートの戸口が乱暴に叩かれる時があって。それはいつも決まって月末くらいのこと――。