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【Onlooker】~サラが見たもの~
第7章 その関係は、曖昧?
おんぼろアパートの部屋に、一人。学校に行けば、クラスメイトから疎まれ蔑まれていた。そんな境遇に怒りを感じるでもなく、いつもでも空っぽの腹が、ぐう、と情けない音を鳴らすのが、只々、もの悲しかっただけ。
そう、怒りを覚えるほどの力を蓄えることすら、その頃の俊太には許されてなかったのだろう。
そんな少年期に、一筋差し込んだ光明――それこそが。
「俊ちゃん」
確かに彼女は、俊太を照らしてくれた。嘘ではなく、初めはそうだったはずだ――。
母親の顔を、俊太はまるで知らなくて。生きているのか死んでいるのか、そんな想像を働かせたことも――そもそも母親という存在がどういうものなのか、そんな風に意識したことだってなかったのかもしれない。
だから、大人の女の人と接することとなったのは、それが人生で初めての経験となっている。
「よろしくね」
それまでの古びたアパートの部屋とは比べ物にならない。そんな真新しいマンションの玄関先で、彼女は優しい微笑みで俊太を迎えてくれていた。
少しだけメイクは派手であったけれど、紛れもなく美人。スリムで足が長く、細いぴったりとしたジーパン姿が、恰好よく見えた。
父親の再婚相手は、当時まだ二十代の若い女性。その彼女は――
「最初に言っておくけど、私のことを”オバサン”だとか、それに類似して呼称した時には、容赦なくぶん殴るんだからね」
などと、冗談めかして、言い。
「だけどまあ――どうしても“お母さん”と呼びたくなった時は、応相談かしら」
「……」
結局は、口でどう呼ぶわけでもなく。心の中だけで名前の”チハルさん”と呼ぶことになるが、それはともかくとしても――
その日から、チハルさんとの奇妙な共同生活は開始されることになるのだった。