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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
「私が……見たから?」
そう言って見つめ返した時、黒木はふっと苦笑を浮かべた。
「ああ、そうだよ。あんな場面を見られて、軽蔑されたと思った。その前も、紺野さんとの話が気になっていて……俺は結局、その程度の男だ」
「そんなこと……だから、紺野さんのことは」
サラは先ほど反故にされた“言い訳”を口にしようとするが、黒木は片手を出し“それは、いいから”という意図を示した。その上で――
「『逃げるのを止める』なんてカッコつけたくせして、まだ俺の心が逃げようとする。チハルさん、から――」
「――!」
黒木は、ようやくその名を口にしている。
その相手との関係や経緯など。黒木の話はとても断片的だから、正直まだなに一つその事情を窺うことはできない。だが黒木の様子に只ならぬものを感じ、サラはサラなりに踏み込もうと試みている。
「その……チハルさんって?」
――どんな人なの。と、そう訊ねようとした意図に反し、黒木は操作を終えたスマホのケースをパタンと閉じると、静かな笑みを口元に浮かべてこう答えた。
「今、場所を教えた。暫くしたらここに来るだろう」
「――!?」
急激な展開に、サラは驚き咄嗟に席を立とうとした。
「じゃ、じゃあ――私なんかが、ここに居るわけにはっ」
件の「チハルさん」がいつ来るかもわからないのに、些か慌て過ぎ――ではあるが、一気に緊張感に襲われてしまったサラにしてみれば、仕方なかったのかもしれない。
黒木に素早く手を掴まれたから、とりあえず席には留まっている。
そうして――
「この傷の話、聞いていって――くれないのか?」
「で、でも――」
と、戸惑い言いかけてから、サラはハッとした。
「――もしかして、その傷の話が……?」
取りも直さず、それが「チハルさん」との間にあった過去――と、いう意。
黒木は黙って頷き、それから、こう言うのだった。
「もし話を聞いて、それでも俺のことを嫌いにならなかったら。頼むから――」
緩やかに流れる時間と音楽の中で、黒木はらしくない微笑を浮かべて――。
「チハルさんと会う時……俺の側に、いてくれよ」
「……!」
サラを引き止めた左手――そのドクロのタトゥーが小刻みに震えている。