この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
サラにとってその左手は危機から自分を救い安心をくれた。それに刻まれたタトゥーは、いわば強さの象徴のようなもの。だから、サラはそれを怖いとは思わなくなった。
しかし、その想いに反するように、黒木は――
「心の弱さと醜さ……それを戒めるため、俺はこの傷を穿っている」
まるで独り言のように、呆然と語る。それから、ハッとしたようにサラを見て、放した左手でグラスをグイッと煽った。
「悪い……」
口元を拭い、顔を伏せて謝る。そんな黒木の姿を前に、サラは居た堪れなくなった。どこか使命感に駆られ、黒木が自分を追い込んでるように見えていたから。
「俊くん……なんか、無理してない?」
「……!」
「どうしても嫌なことだったら、話さなくたっていいよ。それと、そのチハルさんとだって、会いたくなければ会わなくていいの。なにも知らないのに勝手なこと言って、ごめんね。だけど、逃げなくちゃどうしようもない時だってあると思う」
そう話すサラをじっと見つめた黒木は、安堵したようにふっと息を吐き出す。強張っていた表情も、少しだけ弛緩させた。
「ホント、なにも知らないくせに、随分と偉そうだな」
「だ、だからごめんって……」
「でも、まあ……逃げてるだけじゃ、自分の行きたいところには、いつまでも行けないだろ」
「え……?」
「俺の場合はそうなんだ。だから、嫌だけど……お前には話してみたいんだよ」
その真剣な眼差しを受け、サラは心して答えた。
「わかった……私に聞かせて」