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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
「……?」
それは調度、黒木が中学生なった頃の話だという。父親の再婚を期に、黒木少年を取り巻く環境は一気に変化したということ。そしてそれは、概ね良い方向だったようだ。
真新しいマンションに迎え入れられた黒木は徐々に人並みの日常を取り戻し、生まれて初めて“家庭らしきともの”を実感したと言った。そしてそれをもたらしたのは相変わらず相容れない父親ではなくて、「チハルさん」だった、とも続けた。
すなわち「チハルさん」とは、黒木の“義母”であり、不遇な少年時代を脱却させてくれた“恩人”でもあるのだ。少なくとも、そこまでの話を聞いた限りでは、そう判断する他はない。
実際に黒木も、自らの口でこのように語っていた。
「気さくで優しくて、面倒見もよくて。その上、まだ若くてとても美人だった」
言った直後、少し照れたように黒木はそっぽを向く。
その様子から察するに、その存在は当時の彼にとって、単に“義母”という枠に収まるものとは違って、そこはかとない“憧れ”すら覚えさせるものであったのかもしれない。
そう感じるからこそ、サラはふと言葉を挟んでしまう。
「そんなチハルさんを、どうして今は避けるようになったの?」
率直なその疑問を口にしたことを、サラは少し軽々しいと省みることになった。
黒木はそれにすぐ答えずに、眉間に皺をよせタトゥーの拳をギュッと握り締めた。そうしてから――
「親父があまり家に帰らなくなって、チハルさんがとても不安がるから――俺が代わりに、色々なことを決めてやらなないと駄目になった」
「決めて……やるって?」
「ああ……簡単に言えば、チハルさんは誰かに“依存”していなければ、生きられない人だってこと。それで――」
「依存……?」
サラはその言葉の持つ本当の意味を、まだ知らない。