この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
「とても稀に、そういう生き方しかできない人がいる」
黒木はそう言って、サラの目を見た。それから視線を下に落とし、こう続ける。
「最初は大まかな役割を与えてやれば、それでよかった。たぶん、俺の親父もその程度に思っていたはずだ。だが、その性質は次第にエスカレートする。今日は先に寝てればいいのか、帰りを待つのか。その場合、何時まで待ち続けたらいいのか。飯は取っておくのか、帰る時間に合せ温め直すのか、その必要はないのか――そんな細かいことを、なにからなにまで決めてやらなければ、不安に陥って仕方なくなるんだ」
「……」
まだその話にピンと来ずに、サラは黙って耳を傾けている。
「俺の親父は、元から家庭的ってのとは正反対の男だ。若いチハルさんが魅力的だったとしても、そんな調子じゃすぐに冷めていたのかもしれないな。次第に俺たちが居るマンションには寄りつかなくなって。それならそれで離婚すればいいって思うだろうが、そう簡単にはいかない事情があったことを、俺も後々で気づかされることになった」
黒木は新しいカクテルを口にすると、どこか遠くを見つめた。
「そして、チハルさんは“そんな自分自身”をよく知っていた。だからこそ、自分が依存すべき相手を懐柔して、自分から離れられなくする手立て――あの女なりの処世術ってゆーのか。自分が相手になにを求められているのか、よく心得ていた」
「それって……?」
「もちろん……いや」
「?」
サラの疑問を交わしてから――
「――問題なのは依存する対象が、親父から俺へと徐々に移行していたってことで。だから、チハルさんは――」
黒木は一旦、そこで言葉を切った。
「……?」
そして、また黒木はグラスを空にする。
「この後の話は、はっきり言って……胸糞が悪いぜ」
「私なら、平気……だから、続けて」
サラは覚悟を胸に、そう答えた。