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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
「ごちそうさま。とても、美味しかった」
食卓での食事を終え、そう言って手を合わせた時。
いつものチハルさんなら「また、お世辞いってる」と言って照れて、迷いなく食事の後片付けをするだろう。それが大まかに、この家での自分の“役割”だと理解しているから。
けれど、この時は――
「……」
じっと興味のないサッカー中継を見たまま、動こうとしていない。どうやら、そんなチハルさんの心は不安で一杯みたい――だから。
「ほら、チハルさんは早く片付けちゃってよ。僕はお風呂の掃除してくるから」
そうやって細かい“行動”までを明確にしてあげないと、どんどん不安を募らせるばかりだった。
なにをしていいのか、わからないと不安になる。
自分個人としての興味も動機も、心の中に生じてはくれないことに気づく。
それだから、誰かに“その部分”を委ねたいと、強く望む。
なにを目的とするのか、なにを好きになるのか、なにを幸せと思うのか――それすらも、全て。
誰かが決めてくれない時間が続くと――なにもできない自分のことを、酷く卑下しようとする。
「……」
チハルさんの“心のシステム”は、大体そんな心理を順に辿ってゆくのではないか。短い期間で俊太がわかったのは、そんなところだった。
だから酷く落ち込みそうな時は、俊太の方で細かい行動までをさりげなく促してやらなければならない。だけど、そんな日々にも限界を覚え始めることになり――それは。
「俊ちゃん――」
バスルームの掃除をしている時に、不意に背後から声をかけられていた。俊太は振り返らずに手を動かしたまま――。
「お風呂が湧いたら先に僕が入るから、チハルさんはその後で――」
そう言いかけたとこえろで、不意に背中からチハルさんに抱きつかれていた。
「ど、どうしたの……急に?」
突然のことに、身動きを止める俊太。その背中越しに、こう囁かれていた。
「いっそ――一緒に入っちゃおうか?」
「――!?」