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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?
冗談めかして、そんなことを口にすることは度々あった。俊太のことをからかっている。でも、その時の言葉の響きはどこか違った。
思いがけずに、呆然として。浴槽を流すシャワーだけが、その音を響かせ続けていた。
「ねえ……俊ちゃん」
「な、なに……?」
擽るようなその言葉は、耳のすぐ近くから聴こえてきている。この一年足らずで成長した俊太の身長は、チハルさんのそれとほぼ同じ。だから、耳と口が同じ高さにあって。
そんな事実に、おそらくチハルさんも気づいていた。
「大きくなったんだね。俊ちゃんも……男の人に、なるの?」
その言葉を妙に艶めかしく感じて。
自分が迎えているであろう、思春期という段階(ステージ)。それとチハルさんへの、形にならない淡い想い。
それを自覚するから、俊太は大いに焦っていた。
「やめてっ!」
「きゃ……!」
肘を張って身体を反転させ、チハルさんのことを強引に振り解いた。
チハルさんは浴室の壁を背にするように尻餅をつくと、俊太の手にしていたシャワーのノズルより放たれる水を頭から浴びた。
「……」
徐々にしっとりと濡れ、透けるTシャツ。水の流れのままに、頬に纏わりつく濡れ髪。
そんなものを眺め、心に只ならぬものを宿して――。
「チハルさんっ――」
――こんなの、変だよ!
そう吐き出そうとして、俊太は辛うじて止める。
たぶん、それはチハルさんを最も傷つける言葉になってしまう……から。
「しゅ、俊ちゃん……?」
なにかに怯える、その瞳を見つめ。
「ごめん……やっぱり、お風呂――チハルさんが先に入って」
俊太はそう言うと、自分の部屋に戻った。
チハルさんの心の問題は、考えていたよりずっと難しいのかもしれない。そんなことを思った俊太は、この先に彼女とどう接していいのか――悩む。
そんな気持ちとは裏腹。とある決定的な“一夜”は、もうすぐ。
俊太が十四歳になるその夜に、訪れるのであった。