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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?

 ギッ――ガチッ!


「……」


 それまでの俊太に、部屋に鍵をかけるという習慣はなかった。マンションには自分とチハルさんの(ほぼ)二人しかいなくて、部屋のドアが勝手に開かれることを心配するする必要を感じたことなど一度もなかったから。でも――


 ガチャ……ガチャ……。


 十四歳の誕生日の夜。あんなことになったから。それを忘れようとはしていたけれど、やはり二度とあってはならないと強く己を“戒め”ていたから、念のために鍵をかけることにした。

 そうして――


 ガチャ、ガチャン!


 残念ながら鍵をしたことに、意味は生じてしまったようだ。


「……」


 俊太はベッドの上で上体を起こすと、開かずに何度も捻られては鈍い音を鳴らす、部屋のドアノブを見つめた。

 すると、ようやく無駄と悟ってか音が止み。そして暫くの間を置き、その声は暗闇の中にひっそりと聴こえた。



「俊ちゃん……まだ、起きてるわよね?」



 チハルさんの声は、どこか沈んだ響き。それを耳にした俊太は、期せずして息を呑んだ。

 返事をしてはいけない。応じてはいけない。起きてることを悟られてはいけない。

 もう、あんなことは金輪際、御免であるのだから。


「――!」


 俊太は自ら傷を穿った左手で、自分の口を強く覆った。

 それでも、尚――。

 トントン――ドアをノックして。


「起きてるのよね? 寝てるならすぐに起きなさい。お父さんが帰って来ないの。今日で一週間になるわ。また、あの女と一緒かしら? それとも、別の女……? ねえ、俊ちゃん……この気持ち、こんな時……私はどうしたらいいの?」

 話を区切り、また――トントン、とドアを叩く。


「……」


 俊太は怖くなって、頭から毛布を被った。ドアの外に立つチハルさんの気配が、部屋の中まで流れ込んで来そう。そして今のチハルさんは、俊太のよく知るチハルさんとは違って、不安に押し潰されそうで常軌を逸している。

 そうだとわかるから、俊太は毛布の中でガタガタと震えることしかできない。耳を塞いでも、トントン、というドアを叩く音はいつまでも響いていた。

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