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【Onlooker】~サラが見たもの~
第10章 導かれゆく、想い(こたえ)たち?
一頻り、チハルさんに抱きつかせた後――。
「とにかく、座ろう」
黒木はそう言って、チハルさんに着席を促す。
そうして一つのテーブルを囲んだ三人の間を、実に妙な時間が流れ始めた。
「……」
サラはといったら所在も無く終始無言であるが、それも無理はなかった。果たして自分の存在は、徹底してチハルさんの目には留まることが無いようなのである。
「貴女、誰なの?」と冷淡な言葉を向けられることを一応は覚悟していたのだが、今のところそれも杞憂。
というより、これだけ近接した上で黙殺され続けることが、時間の経過ともに徐々にプレッシャーとして重く圧しかかろうとしている。居心地が悪いこと、この上なしだ。
そうやってサラを無視(?)しながらも、当のチハルさんは至って上機嫌で饒舌だった。「俊ちゃん」との思い出話を懐かしげに語り、そのうっとりと潤ませた瞳で今の黒木の顔を愛でるように眺めている。大人の男になった姿を、満足そうに称えた。
そして、話を向けられた黒木は――
「……」
いつ終わるかもわからない話に耳を傾けながら、サラ以上にその表情を苦痛に歪めた。
大丈夫かな? と、その気持ちを察し、サラが心配した時のことだ。
「――どうしてなの?」
突如として、チハルさんの声が沈んだトーンに変わる。
「どうして私を一人にして、出て行ったりしたの?」
それは、一気に逆さに転じたかのような、情緒。それに際しテーブルの周囲の空気が、どんよりと重さを増したような感覚に苛まれていた。
「――!」
黒木の話したことは真実なのだと、その発する殺伐とした空気に触れて、サラは確信した。