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【Onlooker】~サラが見たもの~
第10章 導かれゆく、想い(こたえ)たち?

 この女(ひと)が、チハルさんなんだね……。


 唖然として見つめる先で、チハルさんの纏う善からぬ気が黒い霧となり、苦悩する黒木の身体をがんじがらめに絡め取ろうとする。そのように錯覚するまでに、その言葉は怨念と成り変わろうとしていた。

 おそらくは心して答えなければなるまい。その威圧がいかに理不尽であったとしても。それこそが、チハルさんなのだから。

 そして、黒木は重い口を開いた。


「なあ、チハルさん――」

「なぁに?」

「俺、一人で都会に出て、とにかく必死だったよ。最初はホームレス同然、ゴミを漁る毎日だった。その内に拾われるようにして、ようやく歓楽街の店で子飼いになって……。それでも、人間扱いすらされずに、虐げられ続けてきたんだ」

「だから――?」


 チハルさんの反応は、酷く冷徹なものだった。

 それでも――


「俺はそうして、とにかく生きた。生きてきたんだよ。だから、そんな俺のことを……褒めてくれないか……チハルさん」


 黒木は心から言葉を絞り出すように、そう伝えた。

 すると――


「そうね。よく生きてられたと思うわ。貴方も――そして、私も」


 そう言ったチハルさんは、左の手首を返しそれをテーブルの上に――。


「――!?」


 思わずサラは目を見張る。

 チハルさんの手首には、幾重もの傷跡が連なっていた。

 それらをまざまざと見せつけた上で、チハルさんは再度、問うた。


「どうして? お互いにこんな想いまでして、どうして離れ離れにならなければ、いけなかったの? さあ、俊ちゃん――答えて」

「……」


 黒木はじっと、自らの左手を見つめる。
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