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【Onlooker】~サラが見たもの~
第10章 導かれゆく、想い(こたえ)たち?
まるでチハルさんの手首の“躊躇い傷”と己の“戒めの傷”を呼応させているかのよう。今の黒木の内心は、過去から現在までのチハルさんのせめぎ合っているのかもしれない。
サラは漠然と、そのように感じた。
「どうして? ――それは出て行く時、手紙に残したはず」
黒木が、そうポツリと言った時。
間を置かず、チハルさんは鞄から、その手紙(と思しき封筒)を出した。
「ええ、コレでしょう?」
「……」
「これだけじゃ、全然わからないじゃない。どうして私が不安にならなければいけないの。どうして悲しまなければならないの――その理由を、ちゃんとわかるように教えて」
「その理由なら――」
黒木は迷ったようにしてから――
「一緒にいた時――もう、見失っていたんだよ。それで俺は、離れなければいけないと思った」
そう言って唇をかみしめた。
「わからない、わからないよ! でも、そんなことはどうでもいい! もう済んだこと!」
チハルさんは頭を抱え興奮気味に、最後は自分に言い聞かせるようにして、一旦言葉を切った。それから息をつき、やや落ち着きを取り戻している。
「俊ちゃん、手紙にはこう書いてあるわね」
と、黒木から手紙を開き――
【僕が大人になった時、必ずもう一度チハルさんと向き合ってみようと思う】
と、その一文を声に出して読んだ。
「書いてるわよ、ねえ?」
「ああ……」
黒木が短く返事をしたのを聞き、チハルさんがくっと口角を上げた。
「これって――これからは、ずっと一緒にいてくれる――そういう意味だと私は思うの」